農業に新風を巻き込むp5

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渡辺
先ほどいいましたが、現在、農消資本では3年ものの債券を使っています。ただ、ほとんどの人が借り換えに応じており、実質的には永久社債のような形になります。農社の人たちもあまり金融のことには詳しくないし、また、投資家もあまり大量の投資をしないようにお願いしています。結局、現在は進化の始まりだということでしょう。
田中
農地法の縛りがあった農業の株式会社化がようやく進みだした。農地法では農地は農業従事者しか保有できなかった。それは一般の大手企業が参入されると困るという事情があったからです。しかし、いまや背に腹は代えられなくなった。というのは、農業の担い手が極端に減ってしまったからです。そこで大企業の参入もやむなしということで農地法の改正になったわけです。いま、農業法人というような形で持っているものが、株式会社に改組されていくだろうと思います。そうするとファイナンスなどもしやすくなるでしょうね。
岡本
大きな構造変化ですね。
田中
いままでの農業はほとんどコストを意識しないでも仕事ができていました。仮に、損をしても補助金が配られる。こういうスタイルだからコストカットもいらなかった。当然、金融コストもほとんど考えることもなかった。したがってこれから調達側が有利な資金調達方法を模索するようになるのは当然です。また、出資する側も自分のおカネを何か手応えのある使い方をしていきたいという意識が高まっている。
岡本
それは間違いなくありますね。
田中
農業向けの出資の手応えは環境のためになるとか、ふるさとの役に立つなどがあるわけですが、そのひとつが若い人を育成するということではないかと思います。自分のおカネやスキルを若い人のために役立ててあげる。これは大きな生きがいになる。何かおカネを持っている人たちの意識が変ってきているように思いますね。だから、新しい農業でチャレンジしたい若者を応援したいという人も多い。しかし、農村には、まだまだ古い体質が根強く残っている。農家の間には、みんなが同じように貧しいのはがまんできるという気持ちがある。しかし、一軒だけが工夫して成功すると足をひっぱりたがるというような傾向もまだまだ残っている。このへんがなかなか変化できない原因ですね。
岡本
何か江戸時代の農民みたいですね。
田中
そう、似ています。農協のシステムの悪い点はみんなの米を集めてひとつのブランドにすることです。ナントカ農協のナントカ米とね。そうすると収穫量を増やすというインセンティブはあるけれど、良いものを作るというインセンティブが働きにくい。
渡辺
今やっている農消資本会社の人たちは、ほとんど農協の枠から飛び出してしまった人たちです。「俺がいいものを作っても混ぜられてしまうのには耐えられない」という人たちが始めているのです。そこで農社に消費者の資金を入れ、インターネットや宅配業者を使って自分で自分の作品を売ろうとしているわけです。みんな地元から見れば「変わり者」と思われているかもしれない(笑)。
岡本
農協サイドからそれに対する抵抗はないのですか?
田中
これまでどおり農協を通すことをしないと補助金の申請や支給となど、種々のサポートを与えないという動きもあるようです。農協の枠から出るというには相当の覚悟がいると思います。
渡辺
全国でも北海道は一番農協の影響力が強い。千葉や埼玉、山梨のように大都市に近いほど影響が弱い。それは消費地に近いので自分で売り込みにいけるという選択肢があるからです。東北でも福島だとまだよいほうです。
岡本
昔から「千葉のおばちゃん」みたいに大きなかごを背負って電車に乗ってくる。
田中
そうそう。いまでもいますよ、成田線に乗って(笑)。大切なことは、ビジネスとして農業をやっていこうという人に成功体験をさせる。そして仲間を作らせてあげる。そんなことが必要な時期にきていると思います。
渡辺
2008年の10月9日付の朝日新聞(夕刊)に「福島の農業法人 『新米で配当』 社債20万円で毎秋10キロ」という記事が出たんです。これに対して200人からの問い合わせがあり、そのうちの40数名が社債を実際にお買いになりました。このタイミングはまさにちょうどリーマン・ショックの後で、株価が暴落をしていたときです。
「キャッシュ・イズ・キング」といわれているときにおカネを出す人がいる。しかも、リスクのある投資対象です。これは本当に驚きました。何かグローバルではない、極めてローカルで、しかもレバレッジではなく、米というあたりがアピールしたのかなと思います。まさにサブプライムのまったく正反対の商品だったところが良かったのかもしれません。
岡本
それはすごいですね。
渡辺
確実にもらえるよりも、確実に消費するという点が重視されたのかもしれません。
岡本
田中さんは、何か新しい取り組みはありませんか?
田中
12月から2月まで、私の美瑛(俵真布)の廃校を使って農業ビジネススクールを月2回行います。「期待される農業経営者」「農業における経営戦略」「農業における経営資源」「農業経営に必要な情報」「農商工連携による収益拡大」「若手農業経営者への期待」などのテーマを6回にわたり有識者の方々にお話いただきます。これによって意欲のある若手農業者を発掘し、実際に事業としての農業経営に取り組んでもらうきっかけにしたいと思っています。
(→次頁へ続く)