
僕は所帯を持ってちょうど20年になる。人生において容易に巻き戻らないほどの時間が経過している。この間、低インフレ、原材料価格の低下、そして金利低下により、主要国株式市場は恵まれた環境にあり、特に90年代に欧米では大きく上昇した。だが、スタートが資産バブルのピークにあたった日本株市場は大きなマイナスを被っている。株価が常に正しい状態である保証はなく、その時代の大多数の市場参加者が必ずしもバブルや買われすぎを判断できるわけではない。
当時の空気を知るうえで「四酔人株価問答 日本の株価の決まり方」(三輪芳朗教授)はおもしろい。ここでT教授がプカプカ論という株価決定論を披露し、平成資産バブル時代の登場人物が語り合う。なかでもT教授は、学界ではバリバリのファンダメンタルズ重視派なのに、実は日本の株価は将来生み出すキャッシュフローでは説明がつかず、まるでプカプカ浮いているようだと感じていた(砂上の楼閣学派だ!)。教授が旧友の運用責任者たちに、株価の決まり方についての認識をただすと、皆、答えに窮し、結局まわりがどう考えるか、つまり美人投票的思考に大いにとらわれていることがはっきりしてくる。
今夏、イボットソン・アソシエイツの山口勝業社長が「時系列分析からみた株式投資 長期見通す姿勢今こそ」と題した日経新聞の経済教室への寄稿で、貴重な時系列データ分析に基づく考察を提供された。期間については1962年から2008年までの47年間と十分長いものだ。83年までの前半22年と84年以降の後半25年。東証一部全上場株式を対象としてリターンを要因分解された表をお借りした。株式リターンを「実力」と「人気」に分解されているのが有難い。すなわち、株主資本の成長+配当がもたらすファンダメンタルリターンFが企業の「実力」であるのに対し、市場参加者の「人気」による評価変動リターン?は《PBRの倍率変動》で測定されている。リスク量(標準偏差)がF「実力」の場合6.3であるのに対し、影のように伸び縮みする「人気」の変化による評価変動は26.1とその4倍ものブレ方を示しているが、そのリターンは殆どゼロであったことが示されている。
前回見たように、89年末市場PBRは5.6 倍とそれまでの倍以上に膨張していた。実力を伴わない人気が消えるのは世の習い。ファンダメンタルズのもたらす長期的な価値の高まりを軽んじて、人気だけの梯子(はしご)にのぼると、いつその梯子が外れてしまうのかわからないことを肝に銘じておきたい。さらに、今回の表では、時代の変節により長期債券と対比した「リスクプレミアム」相当分のリターンが後半25年では極端に低下していて、一般的に株式投資家がかわいそうなくらい報われてこなかったこと。バブル時の過剰な期待に反した成長率の低下による「人気」の離散と並行して、成熟経済に入り全体的にはROEまで大きく低下し、「実力」によるリターンにも影響を及ぼしたことも裏付けられていよう。しかし、あのころと真逆の状況、人気が離散した今、真の実力者と手を結べるというのなら、それはどれほど心強いだろうか。(続く)
| 記事のタイトル | 投資家に開かれた未来 4 |
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